家が欲しいと思った時、その入手方法には様々なものがあります。一番簡単な方法は、既に出来上がっている家を買う、いわゆる建売住宅の購入。次に工務店やハウスメーカーと契約して建てる注文住宅、そして、工務店やハウスメーカーを通さず、直接大工さんや職人さんに発注して家を建てる分離発注方式があります。さらには自分の手で建てるなんて方法もありますが、あまり現実的ではありません(自分で建ててしまった人もいますが、普通の人にはできないと思います)。
建売住宅と、注文住宅は耳慣れた言葉ですが、分離発注方式はあまりメジャーではありません。分離発注とはどんな仕組みなのか?もう少し詳しく解説します。
〓工務店やハウスメーカーの役割〓
そもそも住宅は、人生の中での最大の買い物と言われるように、その金額だけではなく、物理的に言ってもとても大きなものです。その中には、生活に必要な機能が詰め込まれており、人間の英知と技術が凝縮されたものなのです。住宅は、雨風を凌げれば良いという原始時代の家(竪穴式住居)から始まり、より快適で、安全に生活するために進化してきました。竪穴式住居であれば、自分でも作ることができそうですが、現代の住宅は、安全性を高めるための構造、快適性を高めるための設備(電気、水道、ガス)など、専門知識や技術がなければ建てることができません。また、忙しい現代人は、より手軽に家を購入することを望みます。そのニーズに応えるのが工務店やハウスメーカーというわけで、施主に専門知識や技術がなくても、工務店やハウスメーカーに頼めば、お手軽に希望の住宅が出来上がります。
では、工務店やハウスメーカーは何をしてくれるのでしょうか?ここで間違ってはいけないのが、工務店やハウスメーカーが家を建ててくれるのではないということです。実際に家を建てるのは、大工さんや各専門分野の職人さんたちであることを忘れてはいけません。そして、大工さんや職人さんは、その工務店やハウスメーカーの人ではないということです。当然社員でもありません。
小さい頃のなぞなぞで、「奈良の大仏を作ったのは誰?」と聞かれて「聖武天皇」と答えると、「ブッブー・・・」。答えは「大工さん!」というのがありましたが、これと同じで、家を建てるのは工務店やハウスメーカーではなく、大工さんなのです。
工務店やハウスメーカーは、施主からの発注を受け、それを下請けである大工さんや職人さんに発注し、工事全体をまとめる役割をしているのです。
〓工務店やハウスメーカーに発注するメリット〓
工務店やハウスメーカーで家を建てる場合、施主は工務店やハウスメーカーに対して請負契約を結びます。この契約は、工務店やハウスメーカーが、仕様通りに建物を完成させることを約束すると同時に、施主が対価を支払う約束をするものです。この契約が成立すれば、施主は家の完成を待つだけで、何もする必要はありません。家が完成するまでの手配や管理を全て工務店やハウスメーカーが行ってくれますので、まさに忙しい現代人向けの建築方法です。
また、実際の建物を見学できる住宅展示場にはじまり、完成後のアフターフォローなど、組織化された集団ならではのサービスを受けることができます。さらに、ローコストをうたう工務店やハウスメーカーは、工法や部材を標準化し、スケールメリットを活用した仕入れによって、建築コストを圧縮したりしています。
〓工務店やハウスメーカーに発注するデメリット〓
工務店やハウスメーカーで家を建てる場合のデメリットは、前記の裏返しになるのですが、工務店やハウスメーカーと請負契約を結んだ先の大工さんや職人さんとの契約がまったく見えません。工務店やハウスメーカーはボランティアではなく、営利企業ですので、施主から高く受注し、大工さんや職人さんに安く発注します。この部分が不明瞭で、個々の工事で見た場合の費用がまったく見えなくなってしまいます。また、会社のコストとして考えた場合、住宅展示場の建築費や維持費、営業マンの人件費なども吸収しなければならず、スケールメリットで部材を安く仕入れたとしても、本来家を建てるためのコスト以外のコストがかなりのウエイトで乗ってきます。
さらにローコストのしわ寄せは、大工さんや職人さんへの発注金額を安くすることになり、いい加減な施工や手抜きにつながります。一流企業であっても最終的には大工さんや職人さんが建てるものなので、見えない怖さがあります。
〓本来の分離発注方式のメリット〓
一方分離発注方式では、工務店やハウスメーカーを通さず、施主が直接大工さんや職人さんに発注をします。そのため、余計な経費を支払う必要がなく、個々の工事の費用が明瞭になります。また、工務店やハウスメーカーがコスト削減のために定めた「標準仕様」にしばられることがなくなり、施主の要望も現場に伝わりやすくなります。
〓本来の分離発注方式のデメリット〓
分離発注方式の最大のデメリットは「手間」がかかることです。家を建てるためには20職種前後の人が関わります。その全てに発注を行い、なおかつ管理しなければなりません。また、家が建つことを誰も保証してくれません。工務店やハウスメーカーが利益をとってやっていることを、自分がしなければならないのです。リスクを考えると、とてもお薦めできる方法ではありませんね。
〓一般的な分離発注〓
「分離発注」をネットで検索すると、色々なサイトがヒットします。その中で最も多いのが、「設計事務所が施主の味方になり、分離発注方式で家を建てます」というものです。建築の素人が、職人を束ねて家を建てるというのは、あまりにも無謀な行為です。そこ
で、設計事務所が現場を管理することによって、分離発注のメリットを活かしつつ、デメリットである「手間」と「リスク」を軽減しようというのです。契約としては施主対個々の職人で、
設計管理を設計事務所が行ってくれます。一般的に住宅の分離発注というと、設計事務所が絡んだ、この方式のようですが、それってどうなんでしょうか?
家のコストの中に、住宅展示場の経費や営業マンの給料が含まれていることを喜ぶ人はいないと思います。それらの経費を抜き、ちょっと手間がかかるけど、リスクなくちゃんと家が建つとしたら、とても合理的な方法に見えます。しかし、そんなうまい話があるのでしょうか?
結局設計事務所は、素人の施主と職人との橋渡しを行います。契約こそ施主と業者や職人との間で直接結ばれますが、紹介する業者や職人は、設計事務所が紹介したり、お薦めしたりするのでしょう。表向きは原価であっても、裏でリベートの受渡しがないとも言い切れません。さらに分離発注の設計管理料として、かなり高額な費用を取ります。相場では建築費の10%程度のようですので、2,000万円の家を建てたら、200万円の設計管理料を支払わなければなりません。
これでは、費用的に工務店やハウスメーカーで家を建てるのとあまり変わらなくなってしまうのではないでしょうか?個々の工事費用の明瞭性はある程度確保できるものの、工務店やハウスメーカーの営業経費が、設計事務所の設計管理費と利益に差し換わっただけで、施主に費用的なメリットが出ません。思い通りの家が建てやすいというメリットは十分にあると思いますが、費用面での期待はあまりしない方が良いのではないでしょうか。
〓行き着いたところ〓
結局行き着いたところは、マイホーム建設記を読んでいただきたいのですが、結論を先に言ってしまいますと、リスクを全部背負って本来の意味での分離発注に近い状態で家を建てました。たまたま協力者がいたので、その人たちのお世話になりながらなんとか住める家が建ちました。家にかけた時間と労力は、語りつくせるものではありませんが、他人任せにせず、自分でやらなきゃ気がすまない性分の私にとっては、楽しくてしょうがない家造りになりました。
私にとっては最高の家造りになりましたが、全てがうまく行くとは限りません。分離発注をお考えの方は、今一度よーく考えてください。家作りを楽しみたい、自分も家作りに参加したい、そして自己責任の重圧も楽しみに変えられるようであれば、分離発注は最高の家造りになるでしょう。
【分離発注とは】
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